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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『なにっ、木村丈八っ?』
槍の穂が、ぎらぎらうごきたがった。もし、忠左衛門の手がそれを制止していなかったら、丈八の体は、蜂の巣になっていたかも知れないのである。
『ウム……』
と、それを忠左衛門は引き取って大きく頷いたものである。赤穂から京都大阪にわたって、十八尺という変名をつかって同志の者を悩ました闇の男は、この男だったかと、めずらしい気もしてその顔を見るのだった。
『何処へ参られるのか?』
返辞に依ってはと、小野寺十内の声はややきびしい。
丈八は、その人達の雪明りに浮き出されている顔を数えるように見廻わした。――祇園で見た顔もある。赤穂からの船中で見た顔もある。つい先頃、江戸の町ですれちがった顔も――。
『拙者の役目も、こよいで終ったわけでござる。後は、附人や御家臣にまかせ、それがしはこれから、主人の千坂兵部のもとへ立ち帰るだけの事。――各※(二の字点、1-2-22)とも、これでおわかれと思う。短いお交際いでござったが、深い御縁であるような気もする。……では年来の御宿望、成るも成らぬもおきれいにありたいものと望んでおく。――御免』
一礼をして、ずっと通り抜けると、人々の眼を後に、裏門から出て行った。