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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『止めんかっ』

槍柄で長刀をたたき伏せると、春斎は角兵衛獅子のように踵を上げて前へ突ンのめった。すると、

『怯むなっ、春斎』

と、彼と日頃仲のよい小姓の鈴木貞之進が、部屋の隅から唯七を目がけ、碁盤を投げつけた。

盤は、唯七の顔をかすめて、後の柱へ三角の凹みを作った。唯七は槍を捨て、

『よい敵と見たっ、動くなっ』

躍りかかって、拝み打ちに貞之進の肩先へ斬り下げた。

バラバラッ、バラバラッ、と無数の白と黒の碁石が唯七の横顔へ降った。少年春斎が、辺りへ散った碁石をつかんでは、

『畜生っ、畜生っ』

と、打つけて来るのであった。

(――この敵当るべからず)

と思って、唯七が足を移そうとすると、いちど斃れた鈴木貞之進が、

『くそうっ』

と、俯つ伏した儘、彼の双足を払った。

片足立ちに、脚を交しながら、唯七の二度目の後薙ぎが、貞之進の顔を斬った。砂利を斬ったような音が刃を弾いた。

『――卑怯、卑怯、卑怯っ』

春斎は、発狂したような声で、次には、唯七以外の敵へ向って、やたらに、其処らの器物を投げていた。

誰の刃に斬られたか、唯七がそこを去って、二度目に通ってみた時は、もうこの可憐な小坊主は、友達の貞之進と折り重って、見るも壮絶な討死を遂げていた。