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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『赤穂の奴ばらに、いちどは眼にもの見せておく必要がある』
『あまり立ち騒ぐな、大藩上杉の面目にさわる』
『でも、火急だ』
『吾々は先へ行って、御隠居や御子息の安否を見届けようか』
『いや、御当家から、選りすぐった附人が十一名もまいっておる。まさか、おめおめと皆討たれはしまい。――それに、殿の御身辺を護ってゆく者が手薄になろうぞ』
すでにこれは、戦の折の出陣と変らない騒ぎだった。藩邸のすべての者が、皆支度にかかり出した。
そこへ、吉良家の家臣の丸山清右衛門が、雪の中を転んで、急変を告げて来た。
ちょうど、弾正大弼が、大玄関まで踏み出して来たところである。
『清右衛門、お父上は』
と、すぐ訊ねた。
『御生害なされました』
清右衛門は、そう云った。
浪士たちの為に、主人の首級を掻き取られたとは云えなかったのである。
『やっ、御生害を――』
太守の悲壮な声は、同時に、上杉家の人々にも、愕然とひびいて、
(しまった!)
と、脣を噛ませ、又、
(よしっ、この上は)
と、赤穂浪人へ対しての強い敵愾心に、油をそそいだ。
それでなくても、赤穂方の浪人と、上杉藩の侍たちの感情は、火と油のような危険を孕んで、ここ一年余りを越して来たのである。