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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

あなた様の情愛は、小義であります。武門の大義とは、左様なものではない。……もしやです、その感情に駆られるまま、一藩の侍共をうごかして、赤穂の浪人方と打つかって御覧じませ。惨たる修羅を生むことは勿論、お膝下に於て、私闘騒擾の罪に問われ、幕廷のお咎めは必然でござりましょう。禄を捨てた浪人共と戦って、上杉家の社稷を覆えしても、殿には、かまわぬとお考え遊ばしますか。……しかも、すでに亡きお実父上の御首級が、蘇生でもすると思召されるのか』

『…………』

『やがていつかは、こういう事もあろうと思い寄る儀もありました故、常々、兵部が確と、お覚悟の程をもそれとなく申し上げておいたのに……今日まで、お心のうちに、何の御決定もつかずにおいで遊ばされましたか』

『…………』

『浅野内匠頭が短慮のために、いかに多くの家臣や、その家族の者たちが、惨めな姿を、散々に、巷にさらして泣いた事か――その実例を、殿もまざまざと、見聞きしておいでなされたではござりませぬか』

『…………』

『かさねて申しますれば、あなた様御一身は、あなた様のものではない。民の心を体し、家臣の心を身とし、また藩祖よりは社稷を護る大任をおうけなされて、いかなる苦衷を歯の根に噛みたもうとも、自我私情を排して、民と国土の為に、お尽しあらねばならぬお体でござります』