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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『…………』

弾正大弼は、いつの間にか、崩れるようにそこへ坐って黙然と、うな垂れていた。

兵部は、ともすると、涙声になりそうな声を、自身で励ましながら、

『徒党の首領、大石内蔵助という者には又、彼としての立場というものや、使命というものや、又臣下たるの武士道がござります。あれは、ああするのが、最善の武士の道かも分りません――と云って、殿が、上杉家が、ただ眼前の事態に憤って、それへぶつかって行くというのは、決して、大義ではござりませぬ。嘲う者は心なき町人ずれの事、真の識者や、武門の何であるかを知る者は、よも浅慮に御当家を、卑怯の、不孝のとは、申しますまい』

『兵部っ……わ、わかった……。そちのことばを、藩祖のお叱りと、わしは聞く』

『勿体ない』

兵部は平身して、

『では、御得心が参りましたか』

『過った。わしはあやうく、浅野内匠頭と同じ轍を踏むところであった』

『冷えまする……殿……お起ち下さいませ。大事なお体、しかも御病中、さ、御病間へ』

と、太守の手を取って、奥まで連れて行った。

ふたりの他、誰も従いて来なかった。そこを閉め切ると、弾正大弼は突然、兵部のからだに抱きついて、