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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『首尾よう、御本望を遂げられて――』

と欣びの言葉を述べに集まって来る。

その人たちの見て来たところでは、

『いや、桜田の方からも、麻布からも、上杉勢の来る気配は見えぬ』

と云う事だった。

『それでは』

隊伍を正して、一同は、泉岳寺への道を歩み始めた。ちょうど十五日は、お礼日と称ぶ諸侯の登城日なので、両国橋を渡ることはわざと避けて、東両国の川岸筋を真っ直ぐにすすみ、一つ目橋の上にかかった。

『オオ』

眩しげに、人々は、眉の上へ手を翳した。四十六名の顔の一つ一つに、たった今、黎明の雲を破った朝の陽が、紅々と燃えついていた。

泉岳寺炉辺話

時の門

うわさが伝わると、朝の陽があがる一刻の間に、江戸中の雪は真っ黒に汚れてしまった。市民たちは皆、往来へ出て、眩しげに騒ぎ合った。

『やった!』

民衆は、自分たちの予感が、裏切られない事実となって、眼のまえを通ってゆくのを眺め、

『やってくれた!』

とさえ云いたかった。素朴な感動は、すぐ動揺めきを起した。夜の明けたばかりの街々は、そのどよめきに、日頃にない光景を作った。

勿論、雑多な市民層のうちには、大石以下四十六名の浪士たちが引揚げてゆく列を見て、わけもなく弥次馬的に眼を瞠っているのが大部分ではあったろうが、そういう無智な群も、浪士たちの信念の行動にはみな打たれていた。