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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

(どうしよう?)

と云う顔いろが、まず住職の長恩和尚の眉や眼にうごいていた。

その気持を察して、誰かが、

『番僧、断れ、通してはならんぞ。――公儀のおゆるしを待たずには』

と、云い放った者があった。

承天則地が、途端に、ぬっと立った。則地は、長恩和尚につぐ当山の副司だった。

『待て、そう素気なく、追い返してよろしいものかのう。公儀の御法によって処置あるは、当然、上役人方のなさる事、いずれおさしずもあろう。――じゃが仏者には仏者の致し方――考え方というものがのうてはならぬ。当泉岳禅寺はいう迄もなく浅野家代々の菩提所、かかる時こそ、有縁の廂とならねばなりますまい。いわんや、その忠誠なる家来共が、此寺の一樹を頼って、亡君の墓前に衷心の手向けをいたそうとするのに、何を以て、僧侶の立場からそれを拒む理由があろうぞ。……通してあげたがよろしい、通しなされ、早速、墓所へ通るように申しなされ』

すると、中庭へ廻っていた門番が外から云った。

『いえ、則地様、もうみんな、ぞろぞろと、墓所のほうへ通ってしまいましただ』

則地は満足そうに、

『そうか、それでいい。――門番、見物人たちを境内から出てもらって、暫時、山門をかたく閉めておきなさい』