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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

と、いいつけた。

僧たちが出てみると、想像以上な群衆だった。深川、京橋あたりからまで尾いて来ている数なのである。追い出して一門を閉めると、塀にたかったり、墓地の垣を破ったりする。泉岳寺の衆僧は、群集の持って来たその大きな雰囲気に忽ちつつまれてしまって、いつのまにか、自分達まで劇中の人間のように昂奮して、寺内を駈けずり廻っていた。

――然し、おくつきの雪はまだこんもりと浄らかなまま積もっていた。たくさんな石碑がみな丸い雪の塔になっていて、今朝は、墓地の持つ陰気な影というものが何処にもない。

墓地の入口の井戸で、内蔵助は、自分で釣瓶の水をあげ、上野介の首を洗っていた。

『――何ぞ御入用な品はございませぬか。遠慮のう仰しゃって下さい』

後に立って寺僧の則地が云った。

内蔵助は振り向いて、一応の次第をつぶさに申し立てた後、

『おことばに甘えて、憚りながら、香炉一つに、三方一脚をお貸し賜わるまいか』

『おやすい事じゃ』

則地は、下男にいいつけて、すぐその品々や、香などを運ばせた。

(……此処だ)

足を止めて、四十六名の人々は、一基の雪の碑を仰いだ。内蔵助にいいつけられて、主税が、その墓碑の雪をていねいに手で落した。