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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

ふたたび焼香をすると、雪の下をずり退がって、両手を開きめに膝へ置いた。赤穂城の大広間で見た以来、彼のそうした厳粛な居ずまいを見ることは、久しぶりな事であった。

じっと、その眼が、一同の頭のうえを眺めわたして、

『間――』

と、呼んだ。間十次郎のことである。

『はっ……』

遠い方からその十次郎が答えると、

『おすすみなさい』

と、儼然という。

十次郎はためらっていた。慎しい囁きに促されて、やがて畏る畏る前へ出て来ると、内蔵助がこう云いわたした。

『このたびの挙に於いては、功の深浅を論ぜずとは、予ての申し合せであるが、そこ許が、上野介殿に一番槍をつけられた事は、いわゆる武士の冥加というもの。……御一同におゆるし賜わって、先へ、御焼香なされてよろしかろう』

『……は』

『二番太刀の武林唯七、次に、御焼香なさるがよい』

『……え、私が』

ふたりは、思いがけない面目に、羞恥むように身を固くした。

彼岸の人々

泉岳禅寺は、関東一の大禅刹であった。五十人や百人の食事の支度には、何時でも事を欠かなかった。

炊事場の方から温かい――然し眼に沁みる薪の煙が、暫く、伽藍の中を煙らしていた。