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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
冷光院殿前少府……
雪の下から碑面の文字があらわれて来るのだった。生ける時の殿に拝謁した気持を人々は思い出していた。
……朝散大夫吹毛玄利大居士
こう下の文字まで明かに読まれた時、四十六名の者は、皆雪の上に坐っていた。
血なまぐさい夜来の袖を燻らすかのように、香の煙が、縷々と紫いろの線を描く。そっと俯目をあげて墓前を見ると、白木の三方のうえに、洗われた白髪首が乗って供えられてある。
『…………』
内蔵助がそのまえに平伏していた。その姿は、まるで自分達そのもののように誰も思った。内蔵助が今、亡君の墓に向って云っている言葉も、自分達の声と少しも変りがなく思われた。
内匠頭の墓は――その時の四十六名にとっては――決してただの冷たい石ではあり得ない。自分たちの真心も、行為も受けとってくれる完全な人格だった。
だから、彼等のうるんだ眼には、石が欣びに泣いて濡れているように見えた。内蔵助の報告を聞かれて、動くかのように、それが見えた。
内蔵助は、やがて、短刀を抜き、刃のほうを首へ向けて、台石の上にさし置いた。次に、それを手に取って三度、首を打った。
『…………』