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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
そんな話し声が、向うまで聞えて行ったのであろう。炉ばたからその右衛門七が、ちらりと此方を向いた。
厨のほうから大勢の僧が、自分のすがたを見て何か話しているのに気づいて、右衛門七は、きまりが悪そうに、ついと起ってしまった。そして、本堂の横の縁側へ出てゆくと、
『右衛門七殿。……おい、右衛門七どの』
と、誰か呼んでいるような気がした。
ふと、廻廊の下を覗いてみると、そこに先刻ここへ引揚げて来る途中、路傍で姿を見かけたあの脱盟者の高田郡兵衛が顔を上げて立っていた。
『……や、高田殿ではありませんか。何しに、これへ』
『取次いでくれんか』
『何をです?』
『実はな……』
と、郡兵衛は、そこに持ち込んで来た菰かぶりの酒樽へ目を落して、
『友だちが大望を仕果したのだ。拙者も、ああした事情で、連判から抜けたものの、心は御一同と変りはないつもりだ。……で、先刻おわかれしてからも、何か、こう自分の気持を、贈りたいと、いろいろ考えてな、寸志だが、酒一樽持って来た。……先刻、堀部や奥田老人など、おれの姿を見かけて、ほろ苦い顔をしていたらしいから、本堂のほうには遠慮するが、貴公から、郡兵衛がこれを届けて、こう云って帰ったと、後でもよい、よろしく披露しておいてくれ……。