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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『山門の潜戸をお閉めください。あれが開いておるので、無断で用もない輩が立ち入って困る。この酒樽と一緒に、この人間も、追い立てていただきたい』

逃げるように郡兵衛が出て行った後から、番僧たちが、彼の齎してきた酒樽を、潜り門から外へ抛り出した。

そして、そこを閉めきろうとすると、一人の番僧が、

『……おや?』

と、山門の内側の隅へ眼をみはった。

ずかずかと、番僧はそばへ寄って行った。薄暗い門の隅に佇んでいた頭巾の女は――眸をすくませて、なお隅のほうへ身を縮めた。

凝と、透かすように見て、

『……ほんとの女だ。……これこそ、ほんとの女らしいぞ』

番僧はつぶやいた。

もう一人の僧は、すぐ女の腕くびをつかまえそうな顔をしめして、

『たれじゃ? ……おまえは』

と、咎めた。

『何の用事で、寺内へ入って来たのじゃ。……え? 何の用があって』

問いつめられて、女は、頭巾の中で顔いろを失っていた。脣までふるえているのである。

『……べつに、あの』

『無断で入って来てはいけません。赤穂の浪士衆を見物に来た者だろう』

『……え、え、そうなんです』

『出なさい、門の外へ』

『はい』

『やがて、公儀のお使者が、ここへお出でなされよう。