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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
何なりと、仰せ聞けられよ』
こういう声が、時々、外に聞えた。
そういう好意は、家中の者にだけ流れていた義気でなかった。太守の細川越中守も又、寝もやらず一同を待っていた。
それは、公儀の命を奉じる当然な勤めであったにせよ、やがて十七名の者が、邸内の大広間に平伏していると、越中守は、自身その席へ出て来て、
『疲れたであろう』
と、内蔵助たちをいたわった上、
『各※(二の字点、1-2-22)の今度の致し方、越中守も神妙に存ずる。もはや深更のこと、緩々、手脚を伸べて休息するがよい。又、何ぞ相応の用事もあらば、隔意なく、家来共へ申し出られい』
と、云った。
国法を犯した囚人である。内蔵助をはじめ、誰も皆、こんな優遇は夢にも期待していなかった。まして、五十四万石の太守が直々、何でこんな親しみを示されるのであろうかと、むしろ疑われるくらいであった。
『……はッ、……はい』
十七名の囚人は、答えた儘、急に頭も上げ得ない。越中守の温かい言葉を、有難い――と胸に沁みて受け容れながら、その有難い――という気持を云いあらわす言葉が遽に見つからないのである。
香華にも春はあり
十六日の早朝だった。