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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

思わず心のうちで掌を合せた。

恐らく、内蔵助がこの「金銭出入帳」を送って来たのも、単に数字の報告をし、又、自己の潔白を明らかにするという気持だけではなかろう。これを通して、一年有余の――自分以外の同志たちの惨憺たる生活の態を、それとなく、読んで欲しいという心ではあるまいか。

その心を以て読めば、これは何んな長い長い手紙よりも又、会って直接に聞くよりも、詳細な消息であった。瑤泉院は、そう気づくと、又しても、男性の思慮と女性の思慮の程度を思い較べて、やはり男の考えというものには、女性の思慮では量りきれない、深さ、高さ、幅のあることを痛切に感じた。

そして、それにつけても、すぐ心のうちで悔いる事は、なぜ、亡き良人にも、そういう尊敬の眼をみひらいて、もっとよく仕えなかったろうか――と思うことであった。

両持ち論議

同じ十六日の黄昏れ頃。

ゆうべの豪雨で、往来は、小石が洗い出されていた。

=泉岳禅寺

と書いた提灯を一人の若僧が持ち、も一人の若僧は何やら重そうな包みを小脇に抱いて、

『叱っ! ちくしょうっ』

後から尾いて来る野良犬へ、杖を振っては、暗い途をてくてく歩いていた。