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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
勇がない。実行力に欠けているのがふつうである。
(長い間、世間を謀って通るさえ、容易ではなかったであろうに、こんなに細やかにまで、心をつかっていやったのか)
と、その出入帳の数字を漠然と見るだけでも、瑤泉院は彼の行き届いた仕方に、ただ驚くほかなかった。
そして、
(これ程の事には及ばぬものを)
と思い、むしろ一筆でもよいから、内蔵助の言葉なり、旧臣たちの事に就いて知らせてくれた方が、何んなに欣しい便りであったろうにと考えた。
――けれど瑤泉院はやがて、その「金銭出入帳」を一枚二枚と見てゆくうちに、自分の浅慮な考えを、厳粛に正された。
表題は金銭出入帳にすぎないが、その一項一項に、細かに誌されている金の使途を読んでゆくと、復讐に加わった同志四十七名の一年半の生活が、まざまざと想像にのぼって来るのだった。これは、読み方によっては、単なる数字でなく、旧臣たちの復讐生活の日誌である。
瑤泉院はいつのまにか、瞼を熱くしてそれに読み入ってしまった。そして自分の尼にも似た生活――自分ほど不幸なものはないと怨んでいた生活を、そのなかの人々の生活とひきくらべて、
(ああ、勿体ない)