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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『おれも実は、胸がむかついているのだが、何だろう、このにおいは』

『血じゃないか、血なまぐさいというような……。見ろ、そこの襖にも、血らしい痕が刎ねている』

そこへ、万昌寺の住職が出て来て、

『どうも、お待たせ致して』

と、恐縮らしい顔をする。

石獅が、早速訊いてみた。

『御住持、何かこの邸内で、異様なにおいが致すようですが、あなたはそう思いませんか』

『御尤もです。実は、この隣りの室に、死骸が十六箇列べてございますので』

『えっ、十六』

顔見あわせて、生唾をのみながら、

『そんなに死んでおりますか』

『はい、御用人小林平八郎殿、中小姓の清水一学殿など初めとして』

『では、傷負はそれよりも』

『負傷者は、二十二名でござりまする。――傷ましいのは、春斎というわずか十四歳の小坊主が、よう働いたそうで、ただ一太刀に斬られて、敢なく眼を瞑っておりまするので』

暗然として住持は云う。

一呑も石獅も、思わず居住居を直した。この臭気も又、忠誠から発するにおいであったかと心を打たれたからである。忠義は、赤穂藩だけのものではなかったと思った。

首で帰った亡君の前で、評議でもしているのか、永い間、奥で手間取っていた老臣達が、やっと活気のない不承不承な顔つきで、手に一札を持ってそれへ出て来た。