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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
他の高家衆に介添まで命じられて、随分、御懇なお宥りであったらしい』
『ふうム……』
伝八郎のみではない。
ここにいる微禄の少壮な目付たちは、みな意外な顔をした。
“生類おん憐み令”をすぐ思い出した。もし内匠頭が犬だったら、戌年生れの将軍や吉保は、憐愍のなみだを流してやむまいにと、へんな気もちがしてならなかった。まさに、将軍綱吉にとっては、内匠頭の生命などは、一匹の犬にも値していないにちがいない。こういう義憤は、多門伝八郎の眉にもありありと燃えていた。彼は、突ッかかるように、つぶやいた。
『即刻とは、今日中ということか』
『そうだ』
『かりそめにも、五万石の主を、即座にお仕置とは、余りにも手軽な処罰だ。且つは又、上野介にも吾等、随分と悪評を小耳にしておる。彼にも、落度がないとはいえぬ』
『そうだ、殿中の刃傷は曲直を論ぜず、両成敗が古来からの掟。吉良どのばかりを、神妙なりとは、余りに御偏頗に聞える』
『片手落ちだ』
と、伝八郎は、天井へ眼をやった。唇を噛んだまま凝と自分を抑えつけていた。
だが、周囲では、まだ囁いていた。
『――お側用人の柳沢出羽守と、吉良上野介とは、そんなに、曰くのある仲かの』