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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

又いつのまにか、この数日の間に、「義士」と云う名称が民衆のことばの中に新しく出来ていて、義士といえば、赤穂浪人の事と通じるようにさえなっていた。

ひどい奴になると、四家御預中の義士が、助命となるか、死罪となるかで、賭をしている町人があるし、もっと端的で熱ッぽいのは、しばしば、そのことから、喧嘩沙汰までおこすのだった。

それが、無智な民衆かと思うと、そうばかりでない。武士同士は、「士道」というものの上から、ややともすると議論になった。

「士道論」が勝つか、「法規論」が勝つかなのである。識者と云われる者のほうが、却って、各※(二の字点、1-2-22)の考え方の相違から、この両説を立てて、対立し易い立場にあった。

学者も、好んで輿論の渦中に巻き込まれた。

(彼等を刑罰せんか、聖賢の道を刑罰するも同じである。聖賢の道なくしては、君父の大義なく、経世の明もない。従って国法は何によってその本義と尊厳を保ち得るか。聖賢の道を度外した国法は、ただの権力でしかあるまい)

と云うのが、同情論の大要であって、時の大儒林大学頭や室鳩巣などを始め、幕府の大官中にも、この同情論を抱く者が多かった。