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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
それに対立して、政道の法理論から云って、
(義という精神は、要するに、自己を潔くしようという自心の発動である。自分の生活信念である。その私的行動が、忠誠であり、孝道にかなうからといって、公法を無視しようとする意見は、又私論と云わなければならない。孝子が盗をなした場合も、涙をもって刑するのが吏務であろう。若し私論を以て、国家の大法を歪曲するに於ては、以後天下の法令というものは、有っても無い事になり、複雑な社会人心はどう赴くか分らない)
と、同情論へ対して反駁する者も少くはない。けれどここに、双方とも、敢て触れない空白を、意識しながら残していた。それは犬公方の令による、ここ十数年来の畜生保護法――すなわち、人間虐待法の是非にふれることだった。しかし彼らは好んで論じた。殊に、義士処刑論の頭目として、これ又、一方の学派を代表している者に、荻生徂徠などもあった。
諸侯のうちにも、勿論この二つに意見が分れていて、上下を挙げて元禄十五年の思潮は、この義士処分論を焦点として、下は百姓、上は将軍家までが、その何っ方かに自身の思想を試みられているかのような状態だった。