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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『何が心得ぬ』
『御家老には、彼の衆を、ただの囚人と思われてか』
『徒党の罪、兇器の罪、高位の御方を殺害の罪、挙げて数うれば五指に余る国法の大罪を犯した者、囚人に相違なかろう』
伝右衛門は、心外そうに眼をうるませた。彼は彼として、それに対する議論は持っている。だが、三宅藤兵衛は家老であり、自分はずっと席の低い物頭役である。――じっと黙っていたが、藤兵衛の睨めすえた眼が外れないので、
『然し、御家老。武士は固よりの事、お台所へ出入する町人輩や、お坊主の端くれまで、義士よ、武士道の華よと、世を挙げて称えておりまする。その人心に及ぼす所は、どれ程、尊いものがあるか分りますまい』
『だまんなさい。罪人を称える事それ自体が、人心へは悪影響だ。法を無視し、国を紊す風を醸すものでござる』
『御家老は』
『まだ云わるるか。法を度外しては一藩の政治もなりませぬぞ』
『もののふの心を知らぬお言葉。伝右衛門は、武士でござれば、服しかねまする』
『服さぬとな』
『はいっ』
『服さぬと云ったな、伝右どの』
『申しました』
『これ伝右どの、貴公よいお年をしながら、巷の人気などに、ぼっとしてはいかぬぞ』