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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『わけても、大石殿はの……』
と、彼の寒がりを慰めて笑った。
内蔵助は、遠方から、心もち頭を下げた。いっぱいな感謝は、その眼から、伝右の心へはっきりと映った。
『――伝右どの、お気持は有難くいただいた。然し、公儀の断罪を待つ私共……身に余りまする。何卒、お火鉢はお退げ置き下さい』
『はははは、最前の外の声が、こちら迄、洩れましたな。いや面目ない事で』
『助右衛門がいらざる無駄ばなし、寒さなど、とやこう申す境遇にはござりませぬ』
『御心配めさるな。上役とはちと論争いたしましたなれど、折も折、ちょうどそこへ殿様から明日は愛宕神社へ御参拝というおふれが出ました。殿様御自身で、御祈願のすじがあって詣られまする。……何の御祈願か……お分りでござろうが。殿には、公儀の御裁決が如何あろうという事に、明け暮れお胸を悩ませておいででござる。……火鉢の事など、一向問題でござりませぬて。御家老の三宅殿も、御社参の沙汰を承ると、二言となく引き退ったわけです。もうお気づかいは一切無用。さ、さ、あなた様が遠慮しておられては、誰方も手を出しかねましょう。細川家の心づくしじゃ、あたって下されい、さ、誰方も寛いであたって下されい』