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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
にやっと微笑するのが、話しかけられた時の答えである。小がらで、肩を張っていない体を、やや猫背にまろくして、今やこの身を、置くべきところへ置いたというように、すっかり落着き込んで坐っていた。
(人間は馴れやすい。どうやらこうしている間に、ここの破格な恩遇に馴れそうだ。勿体ない……冥加に過ぎる……)
彼は、心のうちで、絶えずこう自問自答していた。衣食、起居の物、不自由が無さ過ぎるのだ。余りに不勝手であった生活から、一足跳びにである。その為にかえって、体のぐあいが悪い気持すらする。
で――昨日も、余りに好意へ狎れた申し方と思われる惧れもあったが、心やすい伝右衛門に向って、こう頼んだ事であった。
『私どもは、永い間の浪人暮しで、粗衣粗食に馴れて参ったせいか、御当家より朝夕頂戴いたす二汁五菜のお料理は、結構すぎて、ちと重うござります。匹夫が贅沢に飽いたかのような勿体ない申し分でござるが、以後は朝夕とも、一汁一菜か、せめて二菜にとどめ、それもちさ汁か、糠味噌汁などの類にて仰せ付け下さるように』
内蔵助から云い出すと、弥兵衛や、十内や、惣右衛門なども、
『そうじゃ、ぜひ、そう願いたい』