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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『実を申すと、毎日の御馳走には、少々、貧乏馴れの口が参った形でござる』
冗談交じりに云うので、伝右衛門も、笑いだした。
『それでは、贔屓のひき倒しというやつでござるの』
『それそれ、その事でござる。何分、こうした儘、手紙でも書くか、書見のほかは、何もせぬ体でもあるしのう』
『いやお察し申す。なれど、二汁五菜の膳にせいと云うのは、殿のお声がかりなので、一存に減らすわけにも参りかねる。それに、料理人共も、あなた方の口に欣んでいただこうと力んで、毎日、腕によりをかけて調理しておるのでござる』
『やあ、愈弱る』
『ちと、お体を動かす事ができればよいが、それだけは、公儀のてまえ。――いやそのうちに、近火でもあれば、各※(二の字点、1-2-22)を庭へ集める御規則故、庭に御案内いたそうものを……』
『火事を待つのは何うも』
と、みな吹き出して笑うと、沈黙家の奥田孫太夫が珍しく、
『外気に遠のいたせいか、毎晩、足の土踏まずがかさかさ乾いて閉口でござる。われ等今は何の慾もないが、跣足で土が踏みとうござる』
『御尤もでござります』
伝右衛門は、しんみりとして云った。
『オ、御時計が鳴った。