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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
では――お寝みなされ』
と、立ちかけたが、又戻って来て、
『――申し忘れたが、明日より、奥の役者の間に、大工共が仕事に入りますが、凶事ではござらぬ故、お気にかけぬよう』
と断って退った。何処まで気の行き届いた言葉であろうと、一同はその言葉を玩味しながら眠りに就いた。
枕々に、一つずつ、小屏風が立つ。
内蔵助は、茶色の縮緬頭巾を被ったまま眠るのだった。次の間の若者組のほうは、寝つきが早く、すぐ静かになるが、上之間のほうでは、ごほんごほんと咳の声がなかなか絶えない。
潮田又之丞は、歯ぎしりが癖で、よくからかわれた。又一番老年で、来年は七十七歳になるという弥兵衛老人が、或る夜、
『え――いっ。ええ――いっ』
突然、ふた声ばかり、寝言で人を斬るような気合を発したので、若者部屋の者が皆、がばと、総立ちに刎ね起きて、後で、老人が寝呆けた事と分ってから、夜半に大笑いしたことなどもあった。
こういう単調な生活のうちでは、やはり寝ることが無上に楽しかった。
討入後、お預けの身になって、二、三日の間というものは、枕について眼をつぶると、白い雪と、白い刃が、闇の中にチラついて仕方がなかったと、誰も同じ感想を語っていた。