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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
を飲み交している。
何となく、いつもと違う寛ぎが見え、無言居士の奥田孫太夫までが、今夜はひどくニコニコしていて、
『伝右どのに、お杯を』
と、斡旋する。
『てまえに、お杯を下さるとか。身の誉、戴きまする』
伝右衛門は、干して、次々に返し、そして磯貝十郎左へ酌すると、十郎左は手を振って、
『もう、参りました』
近松勘六が、
『磯貝卑怯』
と、杯を入れると、滅多に戯れない内蔵助までが、
『伝右どの、十郎左はあのような優男でござるが、酒はしたたかに飲りまするぞ。御用捨あるな』
『それ御覧じ。――やわか逃がそう』
『御免、御免』
起って、逃げかけるのを、伝右衛門がつかまえて、無理に飲ませると、小野寺十内が、
『敦盛、討死!』
と、囃したので、又一同は笑いどよめいた。
(――はてな?)
ここの空気に、伝右衛門はふと、常と違ったものを感じて、そう思ったが、その席にいるあいだは、まだ気づかなかったのである。
……その夜、もう遅くなってからだった。
突然、使者が訪れた。
浪士一党の裁決が内々予告されたのである。同時刻に、他の三家へも使者は向けられていたろう。儼として、幕府はここに、法の峻厳を示す内意とある。