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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『この人たちに、とうとう花を見せる日が来たか』
伝右衛門は、俯目のまま、花瓶の前を退がった。夜まで、姿を見せなかった。そこへ眼をやるに忍びないのである。
でもやはり、心がかりになって、夜になってから、そっと見舞うと、もう上之間も下之間も、大半の人はすやすや寝入っていたが、大石瀬左衛門、近松勘六、富森助右衛門などはまだ起きていて、伝右衛門の姿を見かけると、
『オオ、よいところへ。お入りあれ、ここへござれ』
『もはや、お寝みでござろうに』
『いやいや、床についた者ばかり、あのように眼をぱちくりさせておりまする。ちとあなたに、お目にかけたいものがござる』
『何でござりますな』
『ほかでもないが、吾々共も、やがて程なく、この世の埓も明こうかと存ずる。お礼と申すも、今更らしいが、お暇乞いに、ここで芸づくしなと御覧に入れよう』
小屏風を持ち出して来るのだ。そして、その陰へ、助右衛門と勘六の二人が隠れて、隆達節を真似て吹くと、大石瀬左衛門は、真面目くさった顔をして、堺町の歌舞伎踊りを踊ってみせた。
屏風の陰から、二人のお尻が突き出ているし、瀬左衛門が毛脛を出して足拍子を踏むのも可笑しい。