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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

たとえば雉子の啼き声で、地震が予知されるという事実もあるように』

『おもしろそうだが、その学説は、弁当を食べながら聞かしてもらおう。待ちたまえ、今、薬鑵を持ってくるから』

仮小屋では、大釜で湯を沸かしていた。諸藩の中間や小者たちが、そこへ押し合って、土瓶や薬鑵を取りに来ていた。

浅野家の小者の顔も、その中に見えたので、源蔵は、人混みから手を上げて、

『おいっ、ここへ、一つよこせ』

呶鳴っていたが、なかなか渡って来ない。

すると、誰かその時、

『たいへんだぞっ』

喚いた者がある。

もうばらばらと、駈けてゆく者があった。広い下馬先を眺めると、潮みたいに、人間が揉めている。

『なんだッ』

『御城内で、刃傷があったそうだ』

『うそつけ』

『嘘なものか。平河口から、伝奏屋敷へ、早馬が出た』

『ほんとか!』

熱湯を注いだ薬鑵を、今、人間の頭ごしに受け取っていた源蔵は、

『えっ! 御城内で、刃傷があったと?』

『ア、熱ッ』

誰か、さけんだ。

源蔵は、さっと顔いろを変えて、

『素破』

とばかり、大薬鑵を、抛りだして、駈けだした。

『熱いっ』

『ア、熱、熱、熱』

湯を浴びて、騒ぐのもあるし、