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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
と――程なく。
お供先の建部喜六、磯貝十郎左衛門、中村清右衛門などが、悄然として城内から揃って出て来た。若い磯貝十郎左衛門の瞼が、紅くなっているのを見ると、誰もが、はっと恐怖的な動悸に打たれた。
しかも、その磯貝十郎左衛門は、主人が今朝帯びて行った大小を、胸に抱いて来るのであった。
あやうく、ほろりとしかけそうな同僚の眼が、同僚を迎えて、暫くは言葉がない。
『供方は、屋敷にひき取って、後刻の沙汰を相待てという仰せ付けです……』
十郎左はそう云って、主人の大小を、源五右衛門の手に渡した。骨にこたえる程、刀の重さが感じられる。まざまざと、主人の形相の見える気がするのである。
『是非のない儀……』
それを、空しい殿の駕籠に移して、総ての供道具を下に伏せ、一同は、力のない足を揃えて鉄砲洲の屋敷へ引き揚げて行くのであった。誰が、今日の帰りを、空駕籠に供して戻ると、予期していたろうか。
『――世は綯える縄のごとし……と、誰が云ったか。春が、身に沁みる』
ひとりが呟くと、
『まだ、辛いことがある。……夫人様のお驚きを考えるとな』
『うむ……。思うても胸が傷い』
誰の足も、進まなかった。