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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

×   ×   ×   ×

大検使以下公儀の者が、ぞろぞろと退出した後、

『こちらから――』

と、田村家の家来が、内からひらく脇門の戸を、遅しとばかりに、庭内へ走りこんで来たのは、まだ外の明るい頃から待ちしびれていた浅野家の人々だった。

『庭石が多うござる、お躓きなさるな』

ゆらゆらと、提灯の明りが、先に立って導いてゆく。――白い二方幕の上に、高張提灯が掲げられていた。

『おお!』

『殿ッ』

わらわらっと、その中へ、駈けこむがはやいか、磯貝十郎左も、建部喜六も、片岡源五右衛門も、がばっと、俯つ伏したきり、地へ食い入るような嗚咽をしていた。

白い蒲団の下に、遺骸は、平べったく横たわっていた。離れた首は、左の肩先に横向きに添えてある。涙ながら、人々は、柩に納めた。

田村邸から、遺物として受け取った、小さ刀、懐紙、扇子、足袋なども。

磯貝十郎左は、その足袋を持って、顔に押し当てながら泣いていた。十四歳の時からお小姓に上って、

(洟を垂らすな)

(帯が解けておるぞ)

と、主人に仕えるというよりは、主人に育てられたこの身であった。しかも、この足袋は一度でも家来を蹴られたことがない。