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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
内蔵助は、じろっと、不機嫌な眼を、その頭へ投げて、
『横川ではないか』
『はっ……』
『何しに山を降りて来られた?』
『今晩、脇山から見ておりますと、ただならぬ早駕の灯が、千種川をこえ、御城下へと入りました。心にかかって、お屋敷まで駈けて参りましたが、唯今、主税殿のおはなしでは、江戸表において、殿様御刃傷との御注進にござります由、やはり虫の知らせでございました。御家老の御心痛、また一藩の驚き、思いやられまして、つい茫然と、ここに立ち迷うて居りました』
『お身は、脇山の煙硝庫を預かる大事なお役目のものではないのか』
『はっ……』
『なぜ、無断に役目の持場を離れて来たか。左様な非常の折と分って居れば猶更のこと。はやく、山へ帰られいっ』
いつに似あわない叱言であった。主税やお陸の耳にもひびいた程だし、召使たちも、自分たちに云われたように胸へこたえた。
藩士総登城のふれが廻ったのは、それから一刻とも経たないうちであった。
突然の召集に、
『素破、何事が?』
と取るものも取りあえず、在国藩士の二百有余人は、続々と、刈屋城の大手へ踵をついで出仕して来た。
城下外の地方にいる郡奉行や、出役人へは、早馬や、急使が駈け、陽の三竿にかかる頃には、一抹の妖雲にも似た昼霞が、刈屋城の本丸を灰色に刷いて、昂奮した全藩の空気をひとつにつつんでい