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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

果しがないので、源吾は、

『いずれ、今度は、金でも儲けて、又会おう』

起ちかけると、

『あいや、ちょっと……』

『何だ』

『申し難いが、細かい銭をすこし、お持ち合せはないか。実はかくの通り、単衣まで質に入れてしまったので、金策に出られぬ始末』

『金か。……生憎と此方も』

『なに、そう重くいう程な金ではない。お持合せでも……』

源吾は、巾着から、事実乏しい小銭を出して、

『こんな僅かで? ……』

『結構結構。これで夕方が助かる』

往来へ出て来ても、源吾はすぐに待っている弥左衛門に話しする気にもなれなかった。――ああまで人間も落魄れるものかと思う。金銭の貧富ではない、心の落魄れようである。何か、涙が睫毛につきあげて来てならなかった。

(もし、亡君があれをお知りになるものだったら、何んなお気持か)

それを思い出したのである。

いつぞやの円山会議に顔を見せない欠席者のうちで、内蔵助の眼で、これはと思う人々へは、こちらから血判を持って行って返して歩くように――と、これは勿論、内蔵助の深謀で、大高、貝賀の二人が命じられて、毎日戸別訪問して来たのであるが、その結果、

(なるほど、さすがは大石殿、よく観ておられた)