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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『ふム……』

『妙な……とおもっていると、読めたのだ。矢頭右衛門七が時々来ている。その右衛門七を見て、いつのまにか、好きになっているらしい』

『右衛門七を。……成る程、右衛門七は、美麗だからな』

『ところが、如何にせん、あの純情。おまけに、右衛門七がまだ十七歳、女が十八。折角、程よくして、きょうもやっと、二階にまでは上げてあるが、どうも、右衛門七では手が施せまいと思うているのだ』

『それはいい緒口だ。逃がしてはならない小鳥、うまく、籠に馴らしたいが……』

『と云って、こればかしは、身代りができぬし、手伝いもいたしかねる』

『はははは』

思わず五兵衛が笑ったので、

『叱っ』

眼で云って、わざと、

『おう、暗くなりかけた。そろそろ行燈の支度でもするかな』

店と奥の境の袋戸をのぞいて、行燈を出しかけた。

五兵衛も、畳に白く糠の跡を残して台所へ立ちながら、

『どうも旦那、御馳走になりました。――ちと、お閑を見て、晩にでも私共へも、お話しにおいでなすって』

と、草履を穿きかけた。

するとその時、どんどんどんと梯子段を落ちて来るように迅い跫音が響いた。五兵衛は、腰障子につかまった儘、思わず奥を覗き返した。