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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

主の弥兵衛に尾いて梯子段をのぼってゆくと、ここの二階は広かった。二間を抜いておよそ二十幾畳か敷ける部屋に、すでに先客が二十名ほど居ながれていて、床の間の正座だけを空けて雑談していた。

その空席の側に、吉田忠左衛門の顔がすぐ眼につく。内蔵助は忠左衛門と眼を見あわせ、

『ゆるされい』

と、空いている席へすぐ坐った。

『主税、潮田、近松、三村の四名は、石町の空家を家主へわたし、何かの始末をいたして参る故、ここへは立ち寄らず、林町のほうへ参って、後刻お目にかかると申し居りました』

内蔵助が、主へ断ると、吉田忠左衛門もその後から、

『伜沢右衛門も、折角、お招きをうけましたなれど、不破数右衛門と寺坂吉右衛門の二人を伴い、先に相生町の前原の宅のほうへ行きおりました故、失礼をゆるされい』

今宵となってはもう何の話も改まって無いように、人々は寛いで、やがて、安兵衛の妻のお幸や小娘が階下から運ぶ膳を前にして、

『御老人、遠慮なく御芳志をいただきまするぞ』

と内蔵助のあいさつをきっかけにして、一同杯を挙げた。

『さ……何もないが』

と、弥兵衛老人は、末座の若い連中たちへ、接待をつとめた。