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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『卑怯、卑怯っ。女子なら助けてもとらすが、吉良殿の長屋に住む附人ともあろうものが、背を見せては恥でござるぞ』

呼びかけると、一学は足場を取って、振り向きざま、

『おうっ、浅野の痩浪人か』

『元、お馬廻り二百石の近松勘六』

『しおらしくも名乗られたな。おれは、吉良上野介様御領地の百姓から出た生え抜きの家来、清水一学』

『清水かっ。――ここで又出会うとは、よくよくな宿縁。望みどおり吉良殿の死の供をさせてつかわす』

『オオ、何処かで見たようなと思ったら、貴様は、三州横須賀村の御領地へ入り込んで、この一学の家へ、物売りに来た旅商人だな』

『その節は御無礼』

『よい敵、今日はのがさぬ、死出の道づれに』

『何の!』

引き抜いた太刀の先へ、途端に、一学の投げた裲襠がふわりと風を孕んで舞って来た。

はっ――と顔を反向けながら身を退いたが、逞しい両手に振り被られた一学の刀が、次の一瞬には、虚空を割って、勘六の真っ向へ落ちてきた。

『何をっ』

更に、満身でこう云ったが、飽くまで勘六の太刀は後手だった。その機微を刎ね返して、攻撃に出る遑を与えない敵である。三太刀、四太刀、烈しい刃風に圧倒されつづけたまま、