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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

足軽吉右衛門

復讐訪問の第一撃は、三村次郎左衛門の掛矢であった。次郎左衛門は、旧赤穂藩では、台所方のわずか七石二人扶持の小役である。こよいの一挙に加わって、仇家の門を第一に打ち破ることは、彼に取って、もう死んでもよい気のする程、冥加に思われる歓びだった。

がんッ、がん、がん、がん!

如何にや、眠る吉良殿の胆にも応えよと、三打、四打!

めりっ――と門の扉が裂ける。

『それっ』

と、主税の声。

吉田忠左衛門は、金色の采配を持っていた。――が、それの動く間を待たず、杉野十平次、倉橋伝助、赤埴源蔵、磯貝十郎左衛門、堀部安兵衛。

『待てっ』

安兵衛が、人々の潮をささえて、内側から閂を外し、その閂を、彼方の番小屋の横へ、ぶうんと抛り捨てる。

――わっと、その中から、門番らしい者と、三、四人の侍が、頭から何か被って、転ぶように逃げ出して行く。

弓を携えた五名は――

茅野和助、間新六、不破数右衛門、木村岡右衛門、前原伊助。

弦をならべて、すぐ、彼方に見える長屋に向って、バラバラと矢を射かけた。

そこに潜伏している敵を追い出す為であった。

一瞬、副将の吉田忠左衛門が、あっと、何かに驚いたのは、その長屋の一軒から、ぼうッと、火の手が揚りかけたからである。