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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

人を裁く人

そう云ったような物好みな質問をして来る武士があるかと思うと、

『これを、当寺の手より、何とかして、義士方に上げてくれまいか』

と、衣服だの、書物だの、食物などを持って来る町人達があるし、寺では、そんな物を取次ぐ筋はないので、それを説明して帰すやら、訪問者を断るやら、しまいには煩に堪えかねて、門を閉めてしまった。

すると、その門へ、誰やら吉良や上杉を諷刺した落首を貼った。義士を讃えた歌もべたべたと貼られる。

そのうちに又、何者かが、どれよりも大きな継紙へいっぱいに、逞しい文字で、

伏祈

賢明の吏は、真実の士を刑殺する勿れ

あめつちは、義胆の士に加護あり給え

天下人に代りて 城南隠士

こういう貼紙は、他の神社だの辻にも見かけられた。今度の事件は、それを市民が知った当日よりも、五日、十日と日の経ってゆくほど声や噂が大きくなり、殆ど諸国諸藩を挙げて義士の行動や、人物の評や、それに関わるあらゆる話題が、それが民衆自身の生活でもあるように、明けても暮れても話題となって騒ぎを加えて行った。

そして民衆の最大な関心は今、

(幕府が、義士を何う裁くか)

と云う点にかけられていた。