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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

(自分ですら、こうして、新しい初春に巡り会えば――)

と思うのである。生きてゆけば、来年も梅の花が見られるのである。世間へ出れば、ここより貧しくても、ここより自由な日があるのである。

(――自分でさえ)

ふと、怖いと思う。

世間では、討入を遂げて、彼等は満足だろうと沙汰しているらしいが、内蔵助の気持では、まだ後に為す事が残っている。それの済まないうちは、自分の事業は、完璧したといえないのである。今日までの懸命は、その仕上げ一つにかかっている。きれいに、理性を失わず、素直に運命に就くことである。それを万一にも履行できなかったら、国法干犯の大罪人だけのものと成り終ってしまうのだ。――そう思うにつけ、彼のみは、一日一日が待ち遠しい。そして、細川家の温情と優遇は、むしろ最後の最後まで、自分の身にかけられた試煉だとさえ思われた。

又、もっともっと、空怖ろしいことは、世上の評価だった。自分たちへ対する絶大な讃辞だった。

(わしは、そんな人間でない、決して、そんな人間でない。不当な褒め方だ。わしの心事のうちを、打ち割って云えば、大野九郎兵衛と同じ思いもある。祇園伏見で酔った心は、計略でも何でもない、心から酔い、心から遊んでいたのだ。