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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
伝八郎は、幾たびか、
(――起とうか、起つまいか)
自制と、義憤に、思い迷っているようであったが、やがて、同役の者には黙って、ついと詰部屋を出て行った。
暫くすると、若年寄の部屋で、伝八郎の烈々たる語気が、襖の外にまで洩れてきた。
『申し上げざるは、却って、不誠意と存じまして、お叱りを覚悟の上で、愚考を述べるのでござる。――抑内匠頭儀は、本藩は大名中の大身、身は、五万石の城主、清廉温厚の聞えはあるも、未だ今日まで、悪評のない人物です。然るを、家名断絶も覚悟して、今日、刃傷の禁犯を敢ていたした迄には、よくよく、忍びがたき仔細もあればこそと思われまする。――然るに、拙者共の、形式ばかりの口書にて、即刻、切腹仰せ付けられ、相手方の上野介には、却って、御賞美のお沙汰とは、余りに、異様なお裁きのように心得られ、世上の論議もいかがかと、心痛にたえませぬ。――何とぞ、両三日の間、切腹の儀御猶予の上、もう一応、御詮議のほどを願い上げまする』
正義と信じるところに、怖いものはなかった。
耳朶を紅くし、眼には、涙をすらたたえて、彼が、情熱をぶつけると、若年寄の加藤越中守も、稲葉対馬守も、凝と、打たれるように聞いていたが、