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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
死なき生命
『とうとう来たっ。お目附、荒木十左衛門殿、お使番久永内記、御両所の検死。ほかお徒士目附七人、お小人目附六人を従えて、たった今、未上刻(午後二時)御来邸、役者の間へ通った!』
『あっ……では愈……今日! 今日!』
鼻面を並べた二頭の駒は、砂をあげて、白金の藩邸へ駈けもどって行く。
伝右衛門は夢心地で、藩邸の奥へ駈け込んだ。――ああ、もう其処は今朝の形でなかったのである。十七士の面々は、最後の食事をすまし、越中守からの贈り物、白の小袖に浅黄無垢の裃をつけ、足袋、帯なども引き寄せて、静かに死への支度をしている気配。
はっ! と一目覗いただけで、伝右衛門は、そこの廊下と、又、検死の控えの間とのあいだを、ただうろうろしていた。
『どうする! かような事で! 見苦しい』
自分を叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)して、詰所へ入り、がぶがぶと水を飲んで再び出て来た。
予告があった代りに、上使が見えると切腹はすぐだった。もっとも人数も多い。十七名を順々に――そして黄昏れ前に終らなければならない。
越中守も、ひそかにそこに在った。大書院から見ているらしい。場所は庭先――そこには、白い幕と白い屏風――伝右衛門は眼をそむけた。