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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

春の雷

と、柳沢出羽守まで、有の儘に、彼の意見を取次いだ。案の定、出羽守の眉は、ぴりとうごいた。

『すでに、お上に於て、御決着になられた儀を、兎や角と、再応の申し立て、奇怪至極。お取り上げは、断じて、相成らぬ。――伝八郎には、不埓につき、差控えを申し渡されいっ』

峻烈に云って、老中たちを、退けてしまった。

春の雷

時はまだ、昼うららかな、午の刻の頃へ。

場所は、江戸城外の下馬先へと、話が一転する。

×   ×   ×   ×

誰の顔も、飴のように、伸びていた。

とろんと、眠たげな眼を上げると、昼霞のような薄雲が、時々午頃の陽をつつんだり、拭いたりしていた。

馬ですら、欠伸をしている。

大手の下馬先は、朝から、動かない馬と駕籠と、供待の人間で、埋まっていた。――見渡すかぎりの人間の霞である。

『おい神崎、そろそろお弁当刻じゃないか』

『さ……。もう、そうなるか』

『なるらしい』

と、赤埴源蔵はつぶやいて、浅野家の供待小屋から腰を上げた。

見ると、主人の愛馬「浅妻」の側に、片岡源五右衛門が立っている。退屈なので、馬の眼やにでも取っているのか、鼻面を撫でてやっている容子が、常の源五右衛門らしくもなく、何となく呆やりして見えたので、