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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『刃傷だっ』

『刃傷っ』

『刃傷』

各※(二の字点、1-2-22)が、もしやと、自分自分の主人の安否に胸を打たれて、蜂の子のように、わっと八方へ散らかって行く。

『――八幡! 護らせ給え』

源蔵は、こみ上げる不安と祈念を、歯に噛みしめて、

『片岡っ、片岡っ』

浅野藩の供侍を見まわした。

『神崎っ――』

その神崎与五郎も居ない。片岡源五右衛門も、もう見えない。他藩の人々も怒濤のように、何処へとはなく走って行くのである。濛々と、黄いろい砂ばかりが舞っていた。そして、白馬浅妻が、杭を抜いてしまいそうに、砂を蹴って、嘶いていた。

『赤埴じゃないか』

何処にいたのか、打つかるように駈けて来たのは、堀部安兵衛であった。

『おっ、聞いたか』

『聞いた。――然し、あわてるな』

『俺も、万一と、念じてはいるが……』

『他の者は』

『見えん』

『桜田門か、平河口だろう。あれへ参れば、御番士へ、実否が聞ける』

まるで、戦場だ。万丈の埃である。

春の雷に震り落された花のように、お濠端を、諸藩の家臣が駈けてゆく。

堀部、赤埴の二人も、

(どうか、間違いであるように)

眼に砂を入れて走った。

怒濤になった群衆は、桜田門に、ぶつかっていた。