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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

そう見てゆくと人間は少ない。決して、軽忽に洩らし難い大事なのだ。彼の眼は、おそろしく鈍いものみたいに気長だった。

十一日。

先にやった嘆願使は帰ってきた。てんで受けつけられなかったのである。親藩の戸田家から、かえって、開城の諭告書を持たせられて帰ってきたような始末だった。

その結末と、籠城の準備を評議するという名目で、翌日、再集合の布令をまわしてみると、登城人数は前の半分にも足らなかった。

(おや、あの男が)

と、意外に思われる顔までが、欠けているのである。

九郎兵衛は、勿論、来ていた。

この頃では、自然と、彼の周囲には彼と同意の者が坐って一つの色を作っていた。そしてきょうは予め、前の夜にでも協議してきたように、口をそろえて、その一派から籠城の愚であることを反駁してきた。

『幾度言っても同じ事じゃが、わしは、城代として、年長者として、最後まで云う。各※(二の字点、1-2-22)方は、自分一個の名分の方が、今では、捨て難くなっているらしい。怪しからぬ武士道だ。自身が満足をするために、亡家の御名も、四隣の迷惑も、蹂躪ろうとするも同じではあるまいか。わしとて、君家のかかる末路に対して断腸の思いはある。