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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『……察してくれ、俺の立場を』
『長年の友達だ。貴公と、俺とは、共に、浅野家に仕官しない前からの知己だ。槍の郡兵衛と貴公はいわれ、俺は、赤鞘だの、呑ンべ安だのと云われた頃からの仲間だった』
『…………』
『然し、友達だから一緒に終らなければならないという道義はない。ここまでの友達だったのだ。折角貴公が行こうと思った道を、俺が何で止める――。又、くどくどと、よけいなことを訊かないでも、貴公の気持ぐらい、分らないで何うするか』
『…………』
『他の、連判の者へ、披露すれば、おそらく、中には、貴公を刺せという者が出るかも知れない。けれど、それも、俺がいる以上は、決して、させないつもりだ。……ただ、友達甲斐に、連判に関わることは、他言を守ってくれ』
『何で、この上、皆の者に、不利なことを洩らすものか。それを洩らしていいくらいなら、拙者は、この辛い立場に立ち到りはしない』
『お別れだな、一杯つけようか』
『いや』
あわてて、腰を起てた。
『失礼する。いずれ又』
『そうか……。幸、お帰りだぞ』
玄関まで、行燈を提げて、安兵衛は送って出たが、
『そこ迄――』
と、草履に足をのせた。