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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

三名の姿を仰ぐと、途端に、

『かねて、伜から御尊名は伺っておりました。何と、お話し申そうやら、親として、面目次第もござりませぬ』

七郎左衛門は両手をついて、わが子を失いながら、他人の三名へ、両手をついて詫びるのだった。

落涙しながら、

『ちょうど、一月の十四日でござった。年暮に参って、この家で正月を越し、何事もなく見えました伜三平が、自刃いたしましたのは――』

と、語り出した。

その前から、三平は、気鬱症にでもかかったように、書斎にのみ閉じこもって、食事の時でなければ、滅多に、家人とも言葉を交すことがなかったと云う。

その原因は、同志の盟約を守って、江戸表へ下向の目的を、父母にも、家族にも、一言も洩らすまいと固く秘して、ただ、仕官の口を求めに行くというので、その言葉を信じた七郎左衛門が、

(今更、仕官いたす程なら、老いたる父母の許にいて、郷士の家督をなぜつがぬか)

と、彼の出府を許さなかった所から起ったらしい。

三平は、煩悶した。

大事を打ち明ければ、同志との盟約を裏切る。父に背けば、不孝。

虚弱な体質で、清廉剛直な三平だった。ふたつの義を、いずれも重く考えすぎて、適当に生きる思慮を計らなかった。