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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

黄昏の頃、独りで、裏山の亡母の墓前へ行って、好きな横笛を吹いていたと思うと、その笛の音が途切れた頃、彼は、草の上に坐って、割腹していた。

『残念なことをいたした』

三名は繰返した。やがて七郎左衛門の案内で、裏の墓山へ登って行った。親しい友の墓には、百ヵ日の香華が煙っていた。

『いや、三平殿は、まだ死んでおられぬ。吾々の逝く日に、三平殿も真の死を遂げるというもの。……この純情な精神は、拙者たちが血の中にうけて、屹度、御子息の薄命を犬死にはおさせ申さぬ。……今、詳しくお打明けのできないのは残念でござるが』

又之丞や唯七は、こもごも、孤独な老父を慰めてそこを辞した。しきりと、ひきとめたが、皆、胸が傷んで長居ができなかった。芝村の腰かけ茶屋へ来て、昼飯をつかい、淀の上舟の時刻を聞いて、それまで、奥の床几で一眠りしていた。

大阪から京へ遡る三十石船は、夕凪の明るい川波を縒って、守口の船着きへ寄っている。他の旅客に交って、潮田、小野寺、武林の三名も、乗りこんだ。

『――おやっ?』

と、小野寺幸右衛門は、艫へ坐りこむとすぐ、口走った。

『大石殿がいる! 大石殿が』

『叱っ……黙って居れ』