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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

今朝の事件は、伯耆守の耳にも疾く入っていたに違いない。取次の言葉を聞くと、伯耆守は即座に、

『通せ。身が直々に会おう』

と、云った。

自首の使者として来た二人は、討入の趣意書を懐中に持っていた。伯耆守は、それを直接受け取った上、手短かに要領を訊き取って、

『神妙な仕方である。すぐ登城いたして、老中方へ披露に及び、お沙汰を仰ぐ事にするであろう。両所にはその間、緩々当家に於いて休息あるがよい』

二人は、別間へ通された。そして、空腹であろうという仙石家の好意で、湯漬を饗せられた。

そこは、ふつうの客間なので、

『まだ、装束も昨夜のままにて、あまり尾籠の態にござります故、もそっと端近にて頂戴いたしとうござる』

恐縮して、家臣に云うと、

『いやいや、殿のおいつけですから、御遠慮には及びませぬ』

とある。

『では。――』

と二人は、胴着や帯を締め直し、礼儀の心だけを表して、湯漬を馳走になった。

お坊主がそこへ茶を汲んで来ると、二人共、

『茶は沢山でござる』

と辞退して、袖の中から、紙に包んだ焼米を出して、

『甚だ恐れ入るが、これは昨夜、兵糧に持参いたした穢い物でござる。