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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
伊勢、江州、北陸、諸国に蜂起しては彼を苦しめた宗門の一揆はたしかにそれだった。彼に亡ぼされた今川、斎藤、朝倉、佐々木、六角、浅井の諸家の残党や、亡命将軍の義昭をあやつる各地の反抗も、それと同じ性質のものだといえないことはない。
では、こうした炎の片影でなく、真に燃える力をもつ反信長の火元はいったいどこにあるか。聡明な彼は、すでにその所在を今日では知っている。
莫大な信徒と富力と、しかも兵力さえ持っている大坂石山の本願寺か。
いや、その本願寺にしても、それだけの伽藍勢力だけでは、こう何年も信長と対立し信長の統業を根底から邪げるものとはなり得ない。一応は本願寺衆の不屈な反抗も認められるが、その背後にあって、陸路からまた海上から、彼らの物心両面に逞しい補給を与えているものこそ、実に信長が、
(いつかは、かならず)と、心のなかで睨んでいるものにちがいなかった。それは山陰山陽十二ヵ国の富強を擁している毛利一族なることはいうまでもない。
表面、織田と毛利とは、まだ交戦状態に入っていないが、暗々裡の戦闘は、すでに何年も前から行われているといっても過言でない。摂津から山陽方面にかけての豪族たちの抱き込み、物資の争奪、密偵の往来、また旅人を用いての流言戦だの、血をながす以外のあらゆる部面では、もうまったく戦っているのだ。