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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

四

けれど、官兵衛の駒がうごくせつな、袂を除けて、懸命に馬上の人をひと目見た。官兵衛もふり向いた。そして余りに傷々しい瞼をちらと見たので、彼はあとへ惹かれる心と反対に、馬腹へ軽い鞭を当ててしまった。

太兵衛、久佐衛門、善助たちも、それに急かれて、別れのことばもそこそこ、駒の足に倣って駆けて行った。

四

兵庫口も播州へかかっても、道は難なく通った。案ずるより生むが易しで、護符としていた近衛家の往来状も、それを出して示した所は、花隈城に近い湊川の渡しの木戸一ヵ所しかなかった。

「姫路表では、ご隠居さま始め、奥方様や和子様方まで、どんなにこの度のお帰りを歓びぬいて、日々お待ちになっておられるか分りますまい」

善助や太兵衛などまで、途々、眼に描いてそう噂するのを官兵衛もまた、一刻も早く会いたいような面持で、

「そうだろう。何しろ、生きて還れるはずもない者が、こうして生きて還るのだからな」

と、楽しげに語らい合っていたが、やがて、加古川あたりまで来ると、急に道の方向を更えて、

「わしには、善助一名ついて来ればよい。久左衛門と太兵衛はさきへ帰って、姫路の者へ、わしの無事をよく伝えてくれい。