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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
二
「主人一益の心づけで、ともあれご本陣までお供申しあげ、信長公にお会いあった上、諸事、公のおさしずを待つがよろしかろうとの御意に、もはや何処もかしこも味方の陣地を通ることゆえ、何の危険もありませぬが、ご案内のため、伊丹城の外よりお供させて戴いておりまする。――夜明け方までには古池田まで参りましょう。医者も一名召し連れおりますれば、何なりとご遠慮なくおいいつけ下さるように」
と、あらためていい直した。
二
揺られ揺られ官兵衛は眠ったり眼をさましたりしていた。その間二度まで付き添いの医者が熱い煎薬をのませてくれた。
薬すら美味かった。しかし舌に苦味甘味を知り出すと、肉体の苦痛も同時におぼえて来た。とりわけ左の足の関節が甚だきつい。熱をもって来たものと見えた。眼をふせて胸越しに覗くと、自分の脚とは思えないほど太いものが繃帯されて立て膝に置かれている。それを動かすには巨木の根っこを持ち上げるほどな力が要りそうに思われる。
「もう十町ほどで古池田のご本陣です」
そういわれてから官兵衛は初めて信長のすがたを脳裡に描いた。彼は、信長が今日まで、自分をどう考えていたか、また自分のうけた奇禍をどう観ていたかを、よく知っていた。