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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
捨児の城
一
、ご征伐を遂げられた後々まで、世の誹りのたねとなろうに……。真にくちおしい事ではある」
友軍の荒木村重は何の未練もなく、すでに書写山へ先発している。秀吉はしんがりを残して、徐々、後退を開始した。彼の心情として、この戦陣ほど、自己の心に反いて、しかも空しく後退するの他なきような辛い戦はした例がなかった。作戦はいつも覆され易いものだ。しかしそれが敵にくつがえされる場合は当然な戦争だが、味方の方からそれをくつがえされたときほど、三軍の将として、哭くにも哭けない辛さというものはない。
捨児の城
一
ひとつの人生でも、一貫する戦争でも順調のみには行かない。必ず逆境が伴う。いや逆境はいつも順調の中にあるといってもよい。秀吉の逆境は、このころから始まった。顧みるとここまでの彼はたしかに順調だった。中国探題に任ぜられ、西征総司令官として、意のままに機略を振うことができたのである。
ところが、織田信忠が西下し、附随する丹羽、明智、佐久間、滝川などの諸大将がそれを扶け、作戦の根本方針も、安土の直令に依って、一変されて来るに至っては、彼の命令や意図も前のようには行われなくなってしまった。